手の先天異常と足の先天異常を合わせて四肢先天異常と言います.例えば多指症,合指症などのことです.このページでは先天異常一般について,まず知っていただきたいことを記しました.
上肢の先天異常
生まれてきた赤ちゃんの手をみて気になることを列記してみましょう.
動かない.動きがおかしい
手が,指が小さい(大きすぎる)
形がおかしい
指が6本ある,指が(1〜4本しか)ない
私は長年こういった症状を持った子どもさんの診断・治療を専門にしてきました.その多くには手術が必要でしたので,私自身がこれまで行った手術数は2000を超えています.もちろん手術以外に装具療法やリハビリテーションで改善する状態もありますし,ご両親の心配が杞憂で全く問題ないことも少なからずありました.
病名でいうと最も多いのは母指多指症です.それ以外たくさんの病名がつけられた先天異常が存在します.「末端低形成症」という病名のように今では専門家が使用しない古い病名も存在します.このホームページでは比較的頻度が高いものから順次記事を作成していこうと思っています.
多指症
合指症
先天性絞扼輪症候群
短合指症(先天性切断)
裂手症
母指形成不全
橈側列形成不全
..........といったところです.手だけでなく腕にまで症状が及んでいる場合についても書いていきます.また下肢,足にも同じ病気があります.これについても追々書いていこうと思います.
下肢の先天異常
赤ちゃんの足に異常があるとき,心配になるのは歩けるようになる?走れる?スポーツできる?といった点だと思います.下肢の先天異常は大きく分けて歩行に大きな支障を生じる可能性がある疾患と,歩行に大きな支障がない疾患に分けられます.まず,安心していただきたいのは,きっちり治療すれば足の問題だけで一生歩けないということは非常に稀だということです.
歩行に大きな支障がない疾患に対する治療は
1.足底でしっかりと踏みしめることができるように形を整える(足底接地)
きっちりと足の裏全体で立てなくても歩くことはできますが,成長して体重が増えると痛い,疲れやすい,といった症状が出現する可能性があります.新生児期から治療が必要な疾患(先天性内反足,垂直距骨,など)と学童期になって治療が必要となる疾患(扁平足,足趾変形など)があります.治療にはまずギプスや装具を使いますが,手術が必要となることもあります.
2.形を整える
美容的側面が強い治療です.多趾症(多指症),合趾症(合指症),裂足などがこれに当てはまります.基本的に手術が必要ですが,装具を併用することもあります.
3.特別な靴を作成する
ここで言う靴は装具の一種と考えて良いでしょう.靴を作ることもひとつの治療です.
歩行に大きな支障を生じる可能性がある疾患の大部分は,腓骨列形成不全(腓骨列欠損),脛骨列形成不全(脛骨列欠損),先天性下腿偽関節症など非常に稀な疾患です.そのため世の中にある情報が乏しく,治療を数多く経験した医師はほとんどいません.そのため私の所には遠方からよく来院されます.診察日や宿泊施設など個々に対応しますので,これらに当てはまるのではないかと思う場合は,まずはご連絡いただければと思います.
言葉の問題 ...先天奇形?先天異常?先天性相違?
生まれ持った病気,特に外表の異常は「先天奇形」と呼ばれることがあります.英語ではcongenital anomalyです.「先天奇形」は「奇形」という言葉がよくない言葉であるということで使用されないようになりつつあります.その代わりに「先天異常」という言葉が用いられるようになりました.英語でcongenital abnormalityです.しかし英語圏ではこの言葉もだめ,代わりにcongenital differenceという言葉を使用しようという動きもあります.あまりしっくりした日本語訳ではないかもしれませんが,私は「先天性相違」という訳語を使用しています.これら言葉の変遷は疾患に対する,また疾患を持った人に対する世の中の認識,とらえ方の変化を反映したものです.
いっぽうで言葉は意志の疎通の道具としての側面も有しています.いくら個人的信念や社会的通念で正しいと思って使用している言葉でも,通じなければその言葉はコミュニケーションの道具としての意味を持たなくなります.ためしにgoogleでどれくらい検索されるかを調べてみましたが,この項を書いている時点で「先天奇形」が83,600件,「先天異常」が267,000件ヒットしました.残念ながら「先天性相違」はヒットなしでした.また参考までに専門家が用いるデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed)での検索結果も示しますとcongenital anomalyが15,384件,congenital abnormalityが36,141件,congenital differenceが36件でした.ここから読み取れることは
1.今でも「先天奇形」という言葉も頻回に使用されている
2.「先天性相違」はまだ一般化した言葉ではない
3.この傾向は日本だけのものではない
という3点です.したがって,言葉の2つの側面を考慮して,少なくともここしばらくは私は「先天異常」という言葉を使用させて頂こうと思います.