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母指形成不全

程度が軽い場合は,母指が小さい・動きが悪いといったことで気づかれることが多いです.よく観察すると形だけでなく動きも若干悪いのが普通です.自分の手のひらを眺めてみると親指側と小指側が筋肉でふっくらしていることがわかります.普通は親指側の筋肉(母指球筋と言います)の方が小指側(小指球筋と言います)より発達しているのですが,母指形成不全があると小指球筋の方が大きいので母指球筋が低形成であることがわかります.母指球筋が母指の動きに大切な役割を担っているので,母指形成不全では母指の動きが悪くなり,ひいては不器用な手となります.重度の母指形成不全は母指が非常に小さい・ぶらぶらである,そもそも母指がないなどの症状がありますから,何らかの問題が生じていることは一目瞭然です.
 
母指形成不全では筋骨格系以外の先天異常を伴うことが多いことには注意が必要です.複数の先天異常を持つ病気を症候群と言いますが,Holt-Oram症候群(先天性心疾患を合併),VATER連合(脊椎奇形,鎖肛,食道閉鎖などを合併)や血液疾患を合併するTAR症候群,Fanconi貧血などが母指形成不全を合併する症候群として有名です.母指形成不全があればこれらの疾患の有無を検査しておく必要があります.
 
母指は手の中で最も大切な指です.軽度の形成不全でも手全体の機能が損なわれることが多く,年少の間には困ったことがあまりなくても,大きくなるにつれて他の子どもさんと同じようにできないことが増えてきます.また困っていないからと放置すると機能や形態が悪くなっていくことがあります.母指形成不全における治療の目的は母指の機能改善と整容改善です.軽症例では装具治療をまず試みますが,それで治らなければ不自由度に応じて手術を行い,良好な結果が得られます.完全欠損例では示指を母指として使えるようにする母指化手術を行います.重度の母指形成不全があって,母指を全く自分の力で動かすことはできないが,形的にはそこそこ立派な母指である場合の治療はひじょうに悩ましいものです.今ある母指を使って機能再建する方法と,母指を切除して完全欠損例として扱って治療する方法がありますが,個々のケースでどちらがいいかは異なりますのでご相談下さい.

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