内反手(橈側列形成不全)
内反手は,その言葉が示すとおり手が不安定で極度に内に曲がった状態です.内反手は非常に稀で,その発生頻度は1/30,000と言われています.
内反手を理解するには少しだけ解剖学を学ぶ必要があります.上肢には3つの関節があります.肩,肘,手関節です.肩から肘を上腕,肘から手を前腕と呼びます.上腕には骨がひとつだけあって上腕骨です.前腕には2つの骨があります.親指側にあるのが橈骨,小指側にあるのが尺骨です.そのため手から前腕にかけて親指側のことを橈側,小指側のことを尺側と呼びます.橈側にあるのは母指と橈骨ですので,これらが低形成である病気が「橈側列形成不全」です.主な症状は母指形成不全と橈骨形成不全ですが,骨だけでなく橈側の筋肉や神経・血管も低形成です.重度になると尺側にある尺骨も変形や短縮してきます.前腕のふたつの骨のうち,橈骨は手関節に重要な骨で,尺骨は肘関節に重要な骨です.また,手のひらを上に向けたり下に向けたりする動作は橈骨と尺骨の両方がないとできません.
橈骨の形成障害は低形成から全欠損までさまざまな程度を示します.橈骨が欠損すると手関節がない状態となるため手が不安定になって橈側に倒れ込んでしまいます.これが内反手です.橈骨だけでなく,橈側にあるものは全て低形成になるので,橈骨側にある筋は短縮し,内反手変形を増強させます.橈側にあるべき筋は主に手や指を伸ばす働きをする筋です.そのため内反手では手を反らすことが難しくなります.同時に橈骨動脈,橈骨神経も欠損しがちですが,このことによる症状は見られません.
「母指形成不全」の項でも述べましたが,内反手にも先天性心疾患(Holt Oram症候群),脊柱奇形・鎖肛・食道閉鎖・腎奇形(VATER association)のほか,口蓋裂,Fanconi貧血など,さまざまな異常を合併することが多いです.
治療は,変形矯正を目的として生後直後から関節可動域訓練・装具療法を行います.1歳頃に手術で手を尺骨の先端に移動させて安定させます.これで手関節の治療は一段落しますが,多くの場合母指形成不全を伴いますので,たとえば母指化手術を1歳半くらいに行います.その後,小学校に入ったくらいに短縮した尺骨を長くする手術を追加することもあります.